研究について
【基礎研究(唾液腺疾患)】
1. IgG4関連疾患の病態解明と世界初のモデルマウスの樹立
IgG4関連疾患(IgG4-RD)は、本邦から提唱された新しい疾患概念で、高IgG4血症と多臓器へのIgG4陽性形質芽細胞の浸潤と線維化を特徴とする(図1)。その発症メカニズムについては、T・B細胞の活性化や自然免疫の関与が報告されているがいまだ不明な点が多い。そのため、IgG4以外に確立されたバイオマーカーは存在せず、治療としても非特異的なステロイドが第一選択薬として用いられているが、再発率が高く(5年で約40%)、新規治療法の開発が求められている。
本研究では、海外共同研究施設である米国ハーバード大学Ragon研究所と連携して、IgG4-RDの唾液腺病変を用いた多重蛍光染色(TissueFAXS)やシングルセル解析を行うことで(図2)、疾患特異的な自然免疫関連分子を同定し、最終的には、遺伝子導入による疾患モデルマウスの樹立(図3)とIgG4-RDの新規治療法の確立を目指す。



2. シェーグレン症候群の自己抗体の探索および病態解明
シェーグレン症候群(SS)は、唾液腺や涙腺などが障害される自己免疫疾患であり、その発症・病態形成にはヘルパーT(Th)細胞が重要な役割を果たしていることが示唆されている。近年、炎症性サイトカインを標的とした生物学的製剤が開発され、一部の自己免疫疾患では良好な治療効果が得られているがSSに対する効果は限定的である。その理由として、われわれはSSの病態形成には多様なTh細胞(Th1, Th2, Th17, 濾胞性ヘルパーT細胞など)から産生される多種のサイトカインが関与していることを見いだしており、単一の分子ではなく、その上流で制御している経路や自己抗原そのものを標的とすることが重要と推察される。
発症に直接関与する組織特異的自己抗原に注目して、BCRレパトア解析やプロテオームマイクロアレイによる疾患特異的自己抗原の同定し(図1)、診断・バイオマーカーへの応用(厚労省の難治性疾患政策研究事業で構築した「患者レジストリ」で検討)を目的とし(図2)、最終的にはSSの新規治療法の確立を目指す。


【基礎研究(骨髄炎)】
顎骨骨髄炎における骨免疫制御機構の解明
顎骨骨髄炎は難治性の骨炎症性疾患であり、一旦発症すると疼痛や顎骨の炎症が慢性的に持続することにより、著しくQOLを低下させる。しかしながら、その原因や発症機序には不明な点が多く、確立した治療法がないのが現状である。代表的なものに、放射線性骨髄炎や、骨粗しょう症治療薬に関連した骨髄炎(薬剤関連顎骨壊死:MRONJ))などがあり、いずれも治療や管理に注意を要する口腔外科疾患である。
顎骨には多くの骨芽細胞が存在し、これらが細菌による炎症反応に対する防御機構として機能しているものと考えられ、主に骨芽細胞に着目した炎症反応に対する骨免疫制御機構の解明に取り組んでいる。中でも免疫応答に重要な翻訳後修飾の一つであるタンパク質ミリストイル化への影響について、炎症反応との関連性を調べている。

【基礎研究(悪性腫瘍)】
悪性腫瘍
悪性腫瘍の治療を最も困難にする現象は転移である。口腔癌原発巣細胞株(WK2)と 同一患者の後発リンパ節転移巣細胞株(WK3F)の樹立に成功し、その解析を行ったところ、転移巣細胞株の方が、増殖能、浸潤能、浮遊培養下での自己複製能などに優れ ていた。また、ヌードマウス異種移植による舌への造腫瘍能および頸部リンパ節転移能にも優れていた(Figure 4, Table II)。そして、マイクロアレイによる網羅的遺伝子 解析では、転移巣細胞株の方が原発巣細胞株よりも MAGEC1(88.0倍)や MMP-7(18.6 倍)などの癌関連遺伝子の発現が優位に亢進していた。

癌の転移機構を解明するには、癌細胞の転移能と生体の免疫機構との双方から解析することが重要である。癌は様々なクローンが存在した不均一性の集団のため、組織標本のようなバルク解析ではなく、シングルセルレベルでの解析がより重要である。 そこで、口腔癌の原発巣の初代培養より早期に保存された細胞群より、シングルセル を多数分離した。

現在のプロジェクト
1 生物学的特性を解析し、性質の異なるシングル セルを選別して、遺伝子解析を行う。
2 浮遊培養下で、同一患者のリンパ球とシングル セル1cellを共培養し、最も重要な転移初期段階を再現した研究を進めている。

【臨床研究(顎変形症)】
1. 顎矯正手術による気道トラブルの因子解析 〜耳鼻科との連携による多角的検討〜
顎変形症患者では上顎骨の後上方移動や下顎の後方移動により、術後に鼻閉や鼻中隔弯曲などの鼻腔トラブルや、気道の狭小化による睡眠時無呼吸症候群(SAS)を来す可能性があることが知られている。そこで、当院耳鼻咽喉科と連携し、顎矯正手術の合併症である鼻閉感や睡眠呼吸障害といった鼻腔・気道トラブルのリスク因子を抽出することで、それらの合併症の防止に繋げる研究を行っている。
(CT データより術前後の気道容積の変化を計測)

2. 鼻腔トラブルを防止するLe FortⅠ型骨切り術の術式改良
下行口蓋動脈の周囲骨をU字に切離することで、上顎骨の可動性を得られる。骨切り線が短く、短時間で実施可能。さらに馬蹄型骨切りを加えることにより、口蓋が下方に移動し、鼻腔容積が確保できる。

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研究業績
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研究費獲得状況(研究代表者のみ)
2025年
- 基盤研究(B) 研究代表者:森山 雅文
「唾液腺組織由来自己抗原に着目したシェーグレン症候群の新たな治療戦略」 - 基盤研究(C) 研究代表者:大山 順子
「シェーグレン症候群を背景とする悪性リンパ腫の発症機序解明とバイオマーカーの確立」 - 基盤研究(C) 研究代表者:吉住 潤子
「新たな口腔がん検診基準の策定 -関連分子の遺伝子多型と口腔潜在的悪性疾患の関連-」 - 若手研究 研究代表者:宮原 佑佳
「口腔上皮-Th2細胞間のネットワーク機構に着目した口腔扁平苔癬の新たな治療戦略」
2024年
- 公益財団法人 MSD 生命科学財団 研究代表者:金子直樹
「頭頸部がんにおける抗原の解明とB細胞標的治療の可能性の模索」 - 公益財団法人 中外創薬科学財団 研究代表者:金子直樹
「がんにおける特異な腫瘍浸潤B細胞と治療標的となりうる腫瘍抗原の同定」
2023年
- 国際共同研究加速基金 (海外連携研究) 研究代表者:森山 雅文
「IgG4関連疾患の疾患特異的自己抗原の同定 -新たな診断方法と治療薬の開発-」 - 基盤研究(C) 研究代表者:杉山 悟郎
「NMT1結合分によるミリストイル化を介した骨免疫機能調節機構の解明」 - 挑戦的研究(萌芽) 研究代表者:金子 直樹
「疾患特異的環境下における自己抗体産生B細胞とその抗原の同定」 - JST創発的研究支援事業 研究代表者:金子 直樹
「多様な疾患環境下で病態に関与する自己抗体産生B細胞の同定」 - 上原記念生命科学財団 研究助成金 研究代表者:金子 直樹
「T細胞とdysbiosisから紐解く口腔扁平苔癬の病態解明 」
2022年
- 挑戦的研究(萌芽) 研究代表者:森山 雅文
「Toll様受容体8に着目したシェーグレン症候群の新たな診断・治療戦略」 - 基盤研究(B) 研究代表者:金子 直樹
「IgG4関連疾患、木村氏病およびCOVID-19におけるクラススイッチ機構の解明」 - 研究活動スタート支援 研究代表者:高畑 惣介
「腫瘍性骨破壊の表現型を決定する免疫学的機序」
2021年
- 基盤研究(B) 研究代表者:森山 雅文
「Toll様受容体7シグナルに着目したIgG4関連疾患の新規治療法の開発」 - 国際共同研究加速基金(海外連携研究 研究代表者:金子 直樹
「Expansion of CD4+ cytotoxic T lymphocytes and IgD-CD27- double negative B cells in COVID-19 and autoimmune diseases including IgG4-related disease」 - 若手研究 研究代表者:藤永 貴大
「同一患者より樹立した原発巣と転移巣由来の癌細胞株における転移関連遺伝子解析」
2020年
- 基盤研究(C) 研究代表者:熊丸 渉
「仮想リンパ節転移モデルによる癌免疫応答の解析」 - 基盤研究(C) 研究代表者:杉山 悟郎
「炎症による骨免疫制御に関わるカルシニューリン結合分子の同定とその分子生物学的解析」
受賞と奨学金
教員・医員受賞歴
2025年
- 金子 直樹
令和7年度 科学技術分野の文部科学大臣表彰 若手科学者賞 - 陳 鵠
藤野 博 賞
2024年
- 森山 雅文
第16回 日本シェーグレン症候群学会賞
大学院生の受賞歴・受賞歴一覧
2025年度入局、大学院入学
- 南部 孝樹
NSKナカニシ大学院奨学生(2025年4月~)
2024年度入局、大学院入学
- 田中 瑞歩
第57回 日本臨床口腔科学会 九州地方部会 新人賞
2022年度入局、大学院入学
- 澁澤 伸英
次世代研究者挑戦的研究プログラム(2022年10月~) - 園山 卓
次世代研究者挑戦的研究プログラム(2023年4月~) - 松澤 鎮史
一般財団法人 寺山財団 歯科奨学金
第35回 日本臨床口腔病理学会総会・学術大会 優秀症例報告賞
九州大学大学院歯学府 中間発表会 優秀賞 - 藤本 龍史
次世代研究者挑戦的研究プログラム(2022年4月~2023年3月)※DC1採択により次年度以降辞退
日本学術振興会 特別研究員 DC1(2023年4月~2026年3月)
NSKナカニシ大学院奨学生(2022年4月~2026年3月)
九州大学 研究奨励費(DC1 採用)
九州大学 日本学術振興会特別研究員に対する授業料支援(学費免除)(2023年4月~2026年3月)
九州大学大学院歯学府 中間発表会 最優秀賞
2021年度入局、大学院入学
- 桂 淑格
大塚敏美育英奨学金(2023年度、2024年度)